確か三年ほど前、近年の芥川賞受賞者数名の受賞作を、プライベートとしては久しぶりに、また純文学としてはもっと久しぶりに、まとめて読んだことがある。
結果は、惨敗。
作品自体のなんてことなさ、つまらなさ、それ以前のレベルの低さなどにがっかりしちゃったということだが、こんなことを書くのは何かと問題アリなので、これについてはここまでにして。
そして今は、「やっぱり売れてる作家のを読まないとな」と思い、「人気作家ベスト10」などの情報を元に本を読み始めている。
まずは、石田衣良、東野圭吾、宮部みゆきと借りてきて、今、東野圭吾の、直木賞受賞作にして、その年のミステリー五冠を達成したという「容疑者Xの献身」を読了したところ。
ミステリーと言えば、私はかつて、エラリー・クイーンの「本格推理小説」というやつに没頭したことがあり、その他いろいろな作家の推理小説を読んだが、やはりクイーンのみっちりしっかりした美しい論理に魅了され、それを最上としたものだった。
しかしここずっと、推理小説はネタ切れで、「新しいトリックなどまずないぜ」と言われているらしく、今回、そうした点では期待していなかった。
実際、本作品も、推理仕立ての本格ミステリーという感じだ。
しかしその範疇で、目一杯のことをやっていると思えたし、実によく考えられた小説だと思った。
さすが、近年の芥川賞受賞作のようなことはなく、満足を覚えた。
(この作品については、特に注目度が高かったせいか、推理小説としてどうなのかとの議論が起きたようだが、今やそんなことどうでもいいと思う)
ただ、すばらしい作品であるとはいえ、いいたいことはいくつかある。
これほど評判が高い小説であるにもかかわらず、残念なことに、私にとっては100点とはとうてい思えなかった。
推理もの、ミステリーもの、そして小説として、どうもピンと来なかったのだ。
まず、推理ものとしての肝である犯行のトリックについては、細かな部分で大いに感心させられたが、本質的なところが途中で見えてしまったため、驚きはまったくなかった。
(もちろん、その本質的なところというのが具体的にどのように絡むのかなど、全部分かったというわけではない。そんなに僕は頭良くない)
ミステリーとしては、ドキドキ感がかなり少なかった。
期待がふくらみ、どんどん先を読ませられるのだが、知的にも心情的にも興奮させられる面が少なかった。
これは私の考えとして、ミステリーというと、推理ものの形態ではあるがもっとドラマチックなもの、という思いがあるからよけいにそう感じたのだろう。
そして小説として。
まず人物にどうも魅力が感じられない。
共感と愛着が大いに湧き、興味深く忘れがたい……生きていると感じられる人間がいなかった。
淡々とした書きぶりはいいのだが、キャラクターにもっと魅力が欲しい。
また、結末が重く、かつ本当の意味で決着がついていないので、もっと小説の内容としての深みが欲しいと感じた。
本作では、後半に向かうに従い、登場人物たちの感情が極度に深刻なものになるため、それだけのテーマ(思想・内容)や人間の深みがないと、作り物めいて感じられてしまう。
……などと感じたのは、私の感性が変なのか、あるいは久しぶりのプライベート読書で感覚がおかしくなっているのか。
そうは思わないんだけれど。
結果として、本作は確かに面白いし、良くできているし、読んで損はないのだけれど、本格推理小説としても、ミステリーとしても、そして人間物語である小説としても、どの点から見ても60〜80点というような感じに思えてしまった。
「それだけ多面的に高得点なのだから全体としては十分だろう」という考え方もできるが、逆に、「どれも中途半端だから全体としてより点数が下がる」という見方もできる。
このあたりは、一作で判断するのは軽率だけれど、東野圭吾作品の特徴なのかもしれない。
そして一番思うのは、こうした多様な側面で、ある程度のレベルを満たしている、つまり「幅広く平均点以上」という作品が、もしかすると、現代日本の“本格小説(?)を求める高度な人たち”の好むものなのかもしれない、ということだ。
ある一点が薄くても(本作では人間内容の深みなど)、推理ものとして80点、ミステリーとして70点、「読ませる快感」として90点、などという風に、高い評価を受けるのではないか。
彼らからすれば、本作は95点、なんていう風に受け取られるだろう。
しかし私は、例えばドストエフスキーのごとく、文章はめちゃめちゃだし、読みにくいし、本筋がわからなくなるほど余計な部分が多いし、……つまり小説としてはどうかなと言われる要素を多分にもっていても、極度に深く、圧倒的な力で呑み込まれるような小説を好む。
だいたいが、エラリー・クイーンの作品にしても、登場人物に大変魅力があり、かつ論理がほぼ完璧で、特に長編などでは「文学文学」していたではないか。
結局は、私の前々からの考え通り、こういう結論に達するしかないのかもしれない。
──もう書くべきものはありません。昔のものを読みましょう。
──でなきゃ、ライトノベルでも読みましょう。
うーむ、悲しいなあ。